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トピックス


左)三里塚<少年行動隊>千葉県成田市 1970年
右)いつか見た風景<五能線>青森県津軽 1972年




当館では、日本を代表する写真家の一人である北井一夫の個展を開催します。当時を象徴するできごとを扱った初期の代表作「バリケード」、「三里塚」、失われていく農村の原風景を捉えた「いつか見た風景」、「村へ」、新興住宅街の生活を明るいイメージで捉えた「フナバシストーリー」など、北井の作品は様々な作風に変化しているように見えますが、常に時代と向き合う平凡な個としての視点で捉えていることに変わりはありません。彼の作品は、当時を体験した世代にも、ポストバブルの世代にも、新鮮な共感を与え続けています。美術館初の個展となる本展に寄せたエッセイを紹介します。



左)「フナバシストーリー」より 千葉県船橋市 1987年 右)おてんき<つばめの子>岐阜県荘川村 1991年
「時代の抽斗」

写真を始めた頃は、30を過ぎたら写真はやめて真面目な仕事をさがそうと考えていた。それを思うともうずい分長く貧しい写真家を続けてしまった。貧しいことはそれほど苦にならなかったが、何を撮ればいいのかテーマを見失った時がもっとも苦しかったと思う。それでもブローニーや4×5にカメラのサイズを変えようと考えたことは一度もなく、35ミリ判カメラだけでやってきた。カメラやレンズを沢山持つことも避けてきた。今はカメラ3台とレンズ5本だけである。
私は写真を始めてからそろそろ50年になる。長く続けたからといって別に良い事など何もないのだが、今になって初めて気付くひそかな楽しみ事を発見した。それはつまり、半世紀も写真を休みなく続けた写真家は「時代の抽斗(ひきだし)」のようなものを手に入れるということである。
50年分5000本ほどのフィルムとベタ焼、古プリントなどがあって3、4年に一度は虫干しと整理を欠かせない。今では私の家の六畳間全部がそれのための収納庫になっていて、冬の乾燥した時期に20日位をかけて整理仕直すのだ。
撮影した時代とテーマごとに分類して抽斗に納めていくのだが、いつの頃からか、それを私が生きた「時代の抽斗」と思うようになった。どんな時代の過去を何時でも自由に引き出せる。そんなことが今の私にはささやかな楽しみなのである。
こんなばかな事を考えながら、思わずもまた、カメラを手にさすらう日々を重ねていくのかと思う。

2012年8月27日




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左)過激派<機動隊突入>長崎県佐世保市 1968年 右)1990年代北京<鳥市>北京 1996年